微生物を利用した有用物質生産
菌のチカラを最大限に引き出す
菌の持つ無限大の可能性
未利用バイオマスを原料とした糸状菌によるエタノール生産
原油価格の高騰や化石燃料枯渇への懸念に伴い,再生可能なバイオエネルギーの効率的生産法の開発が急務となっています.特に注目を集めているバイオ素材(エタノール)は,世界各国で実用化されていますが,その原料の主流は容易に糖分が得られる穀物や糖質原料であるため,食糧との競合に関する問題が顕著化しています.そこでこの問題を避けるため,未利用バイオマスを用いた有用物質生産が注目されています.未利用バイオマスとは木質や草本などのセルロースを含有する植物などであり,そのうち稲わらなどを「ソフトバイオマス」といいます.
当研究室ではキシロース発酵性をもつ天然の糸状菌,特にケカビを検索し,その発酵能の詳細について検討を行っています.また,その菌株を用いてアミロース系およびセルロース系バイオマスからのエタノール生産について効率的製造方法の開発を目指しています.
バイオリファイナリーによる糸状菌を用いた高価値な有機酸の生産
微生物の代謝産物の中には多種類の有機酸(カルボキシル基を持つ化合物)があり、特定の有機酸を効率よく特異的に生産する能力を持つ菌が存在します.有機酸の工業生産は石油を原料とした化学反応か微生物による発酵生産が行われており,製造コストの安いプロセスを採用するのが現状です.微生物発酵によって工業生産されている有機酸にはクエン酸,酢酸,乳酸,グルコン酸,イタコン酸などがあります.有機酸の主な用途は,食品の酸味剤,pH調整剤,バイオポリマー(プラスチック)原料,他の有用物質合成の出発原料など,幅広い分野で利用されています.最近は,生分解性や色々な物質特性を示すバイオポリマーの原料としての用途が拡大しています.一方,石油工業による環境汚染問題から,バイオマス(林業,農業残渣)を原料とした発酵による物質生産「バイオリファイナリー」が注目されています.バイオリファイナリーによって生産される有機酸は循環型社会形成にも貢献でき,将来バイオ技術によって大量生産されることが期待されています.本研究室ではフマル酸,乳酸,リンゴ酸,イタコン酸などを多く生産できる糸状菌を探索し,効率的な生産プロセスの開発を行っています.
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冬虫夏草・担子菌によるアルツハイマーやアレルギー抑制物質の生産
冬虫夏草は昆虫等の体に寄生し育つ子嚢菌であり,また,担子菌(キノコ)とともに古くから民間療法に用いられてきました。しかし詳細なメカニズムが不明なまま使用されてきたことから,近年では作用メカニズムや効果のある成分の同定など,様々な研究が進められています.冬虫夏草や担子菌の人体に対する効果については,一般的に免疫増強,癌細胞増殖抑制,抗酸化,抗炎症,血管新生阻害などが期待できると多くの資料論文などで報告されています。本研究室では,冬虫夏草や担子菌の培養液または菌糸から成分を抽出し,神経突起伸長物質(認知症治療薬)や,アレルギー反応抑制物質,抗酸化作用物質などを探索しています.これらの効率的生産を検討するとともに,実際に効果のある化合物の同定に向けて研究を行っています.
イオンビーム照射による微生物変異を利用した高機能株の構築
変異誘導技術のひとつに放射線照射法があります.放射線照射には特別な装置を必要としますが,通常では起こりにくい変異を誘発できるのが特徴です.X線やガンマ線、中性子線などの放射線を生物に照射すると,細胞核内の遺伝子に突然変異を誘発します.変異が起きた細胞の中で,極めて有用な耐病性や半矮性などの貴重な突然変異を起こす場合があり,それらを選抜して高機能な菌株を構築します.数ある放射線照射法のうち,特殊な放射線変異法であるイオンビーム照射は,高頻度で欠失変異を生じさせることができ,代謝全般を大きく改質できることから近年注目されています.本研究室で扱っている様々な有用微生物にさらにイオンビームを照射し,新機能の獲得や目的の機能を大きく向上させる,または不必要な代謝を欠損させることで,超高機能な菌株を構築することを目的として研究を進めています.
森脇 真希助教
Maki MORIWAKI, Assistant Professor
略歴
富山大学卒業
同 工学部 技術職員
同 大学院理工学研究部 助手
同 学術研究部工学系 助教
現在に至る
学位・資格等
博士(工学)
専門分野
主な業績
プロフィール
モットー:初心忘れず、謙虚に
掲載誌(PDFファイル)