医工学へようこそ!
細胞やバイオマテリアルから組織を作製できれば、移植治療や動物実験の代替などに応用が可能になります。このときに、バイオマテルなどの材料を分子レベルで設計して創成していくことはもちろん重要ですが、細胞やバイオマテリアルを組織を作るのに適した形状などに加工すること、すなわちプロセッシングも重要になってきます。我々は様々なモノづくり技術を駆使して、細胞・バイオマテリアルを組織作製のパーツとして加工することで、迅速で高機能組織の生体外での再構築に挑戦しています。
細胞ファイバーと脱細胞化マトリクスを組み合わせた筋ー腱構造の構築
筋肉は筋繊維と呼ばれる細いヒモ状の組織が束になって、大きな筋肉組織を形成しています。そこで、我々の研究室では洋服などの繊維を作る際の紡糸技術を応用して、ゲルのヒモを作製し、その中に筋肉の細胞を入れることによって、ヒモ状の筋肉繊維を構築しています。それを束ねる(バンドル化する)ことで生体の筋肉構造を構築することを目指しています。
動画:ヒモ状に加工した筋肉細胞の凝集体(筋肉細胞ファイバー)が自発的に拍動している様子。生体と同様にヒモ状に加工することで、細胞の向き(配向性)も揃い、大きな力を生み出せる様になると期待できる。
筋肉細胞ファイバーの周囲に血管内皮細胞を接着させた後に細胞ファイバーをバンドル化して作製した束状筋肉組織の写真。筋肉細胞ファイバーの表面に赤く染色した血管内皮細胞がきちんと接着していることがわかる。また、束ねた後に血管内皮細胞が毛細血管の様に管腔状になっている様子も観察できる。(緑矢印部分)
動画:自作の筋肉細胞ファイバー引張りデバイスを用いた生体外での筋トレ。筋肉は負荷をかけることによって組織として成熟をするため、筋トレを行わせることでよりしっかりした強い組織が形成できる。デバイスは3Dプリンタで筐体を作り、モーターを使って一定間隔でファイバーを伸び縮みさせることができる機構を有している。
赤色の蛍光で染色されているアクチンは細胞骨格であり、緑色の蛍光で染色されているミオシンは筋肉が成熟していく過程で強く発現する様になると言われている。静置培養(static)したものはミオシンの発現が全く見られないのに対し、引張培養(elongated)したものはミオシンの発現がしっかりと見られる様になっている。
筋肉細胞ファイバーを束ね、物理的な刺激を加えることによって生体の筋組織により近い構造を作ることに成功した。一方で、本来の筋肉は骨と接合しており、その接合部分には腱が存在している。そこで、動物組織から採取した腱に脱細胞化という処理を加え、筋肉細胞ファイバーと組み合わせた筋ー腱組織構造の構築も試みている。
脱細胞化したアキレス腱は細胞との親和性が高いコラーゲン繊維を多く含んだ生体材料であり、細胞ファイバーと組み合わせることで、細胞自身の接着力により筋肉細胞ファイバーと脱細胞化腱が接合することが確認できた。また、培養とともに、筋肉細胞ファイバー同士が接着し、バンドル構造を作ることも容易であった。
岩永 進太郎助教
Shintaroh IWANAGA, Assistant Professor
略歴
早稲田大学理工学部応用化学科卒、早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了、神奈川科学技術アカデミー 中村「バイオプリンティング」プロジェクト研究員、株式会社ネクスト21研究員、富山大学工学部研究員、東京大学生産技術研究所特任助教、理化学研究所リサーチコンプレックス副チームリーダー、富山大学大学院理工学研究部特命助教、現在に至る
学位・資格等
博士(工学)
専門分野
バイオマテリアル・生体高分子
組織工学・再生医療
薬物伝達システム
化学工学・医工学
研究室メンバー
プロフィール
黒岡准教授(プロセスシステム工学講座)と合同で研究室の活動を行っています。
2024年は大学院生12名、学部生8名が在籍しています。
・大学院生(博士前期課程)
(M2)河畑純平、鈴木康生、新美雄介、橋谷康佑、舟山芙美子、渡邊雅也
(M1)朝比奈秀磨、天沼優直、小本意純、川口慎太朗、福田暖、両角俊治
・学部生
(B4)大山美由、工藤大迪、曽根諒乃、中山心愛、深澤颯希、藤井恵子、細野陸、松本茉由