健康管理や医薬品検査に役立つ酵素や細胞を用いたバイオセンシング技術の開発、医療につながる細胞機能制御技術の開発、バイオ製造プロセスの管理に役立つバイオ計測・制御技術の開発等の研究を通して健康社会の維持、増進に役立ちます。
本分野では、「人々の健康を守る」を目標に、電気化学や電気電子工学の計測・制御技術と酵素、動物細胞、微生物細胞などを利用するバイオテクノロジーを組み合わせて、以下のような4つのテーマで研究を行っています。
さまざまな病気のバイオマーカーとなる血中代謝物(糖、アミノ酸、有機酸等)は、現在HPLC-MS等の機器分析によって計られています。これらの機器は同時に数多くの物質の検出・定量が可能でしかも高感度ですが、しかし大変高価です。それに対して当研究室では、ポータブルでその場での迅速・簡便測定が可能な、かつ比較的安価な電気化学酵素センサの開発に取り組んでいます。また、2次元SPRセンサなどを用いることにより一度に数多くの疾患バイオマーカーを同時検出できるマルチ酵素センサの開発にも取り組んでいます。
現在、新薬開発はもちろん既承認薬のリポジショニング(新規な薬効の発見と異なる治療薬としての利用)のためにも医薬品のより迅速、簡便な作用評価法の開発が求められています。細胞レベルの薬理作用評価は、臨床検査前の動物実験を少なくするためにも重要ですが、現状では、薬物応答を調べるために蛍光性の色素やタンパク質で細胞を標識する必要があり、煩雑で時間がかかります。 本研究室では、表面プラズモン共鳴(SPR)イメージングと呼ばれる新規な光学センシング技術を用い、薬物や毒物によって引き起こされる細胞内反応を屈折率変化として可視化する事により、個々の細胞レベルでの非標識で迅速な薬理作用評価・定量評価を実現してきました。 また、iPS細胞の発明により、オーダーメイドの臓器移植や臓器モデルによる医薬品スクリーニングが可能になると期待されていますが、そのためには生きたまま個々の細胞の分化状態を正確に知る技術が益々重要となってきています。しかしながら、遺伝子発現をRT-PCRやマーカータンパク質に対する免疫染色などで調べる従来の分化評価法は、細胞を破壊しないと行えず、サンプリングに頼る方法です。 本研究室では、幹細胞の分化に伴う受容体の発現により、薬物刺激に対する細胞応答が変化することに着目し、表面プラズモン共鳴(SPR)イメージング装置で細胞の薬物応答を観察する事により、非破壊でかつ迅速、簡便に個々の細胞の分化評価を可能にしてきました。
細胞機能の電気的制御を目標として、ITO電極上で神経細胞やグリア細胞を培養し、アルミ平板電極との間でナノ秒高電界直流パルスを印加した際の細胞内Ca2+濃度変化をFRET観察し検討しています。これまでに、種々の時間幅のナノ秒パルスで細胞内Ca2+上昇を誘起できる電界強度を明らかにするとともに、Ca2+上昇機構の検討を行ってきました。また、パルス条件によって細胞内Ca2+の繰り返し上昇の誘起が可能であり、神経伝達物質の電気放出制御が可能と期待し検討を続けています。さらに、印加するナノ秒パルスの電界強度によっては、Ca2+流入を引き起こすだけでなく、その繰り返し印加により、細胞のアポトーシスを誘導できる可能性も見出されてきています。
微生物による食品,バイオ医薬品,バイオ燃料などを効率的に生産するため,培養中の生存活性状態を精度良く迅速にモニターすることは重要です。現在,コロニー計数法や細胞染色法などが用いられていますが,長い培養時間や試薬毒性などの問題があります。そこで本研究では,無試薬で電気的な手法でリアルタイムに生死判定可能な測定システムを開発しています。
篠原 寛明教授
Hiroaki SHINOHARA, Professor
略歴
筑波大学大学院修士課程修了、同博士課程中退、東京工業大学工学部助手、東京工業大学生命理工学部助手(途中、スイス連邦工科大学ローザンヌ校客員研究員)、帝京科学大学理工学部助教授、岡山大学工学部助教授を経て富山大学工学部教授、現在に至る
学位・資格等
工学博士(東京工業大学)
専門分野
生命電子工学(バイオエレクトロニクス)、バイオセンサ、細胞機能制御ほか
須加 実助教
Minoru SUGA, Assistant professor
略歴
富山大学工学部卒業、富山大学大学院修士課程修了、富山大学工学部助手、富山大学大学院理工学研究部助教、現在に至る
学位・資格等
博士(工学)
専門分野
マイクロ・ナノデバイス、生物機能・バイオプロセス