富山大学工学部 電気電子工学コース 電力システム工学講座 Electric Power System Engineering

電力システム工学講座

高電圧パルスパワー技術を活用したプラズマ理工学や産業応用の研究

研究紹介

本研究室の概要

パルス電力技術とは?

 パルスパワーとは貯蔵されたエネルギーを時間的・空間的に圧縮・重畳することで得られる大電力をいいます。例えば、100 W (ワット) の電力を 100 秒間蓄積すると 10 kJ (キロジュール) のエネルギーとなりますが、これを 10 ナノ秒 (1千万分の1秒) で放出すると、1 億 kW の電力に相当します。つまり、小さな電力を蓄えて一気に放出することで、極短時間ですが日本の総発電電力に匹敵する大電力を実現できます。このような技術をパルス電力技術と呼び、この技術を用いることで多くの新技術が開発されてきました。また、近年、半導体パワーデバイスの性能は年々向上しており、安定性、高繰り返し率、長寿命などの性能向上により、従来のガス放電方式のスイッチに比べて許容電力が低くても他の優れた性能が得られるため、パルス電力技術は水処理、殺菌、オゾン生成、バイオや医療分野など多くの産業での応用が期待されています。

 本研究室では、パルス電力技術の開発とその技術を利用した高出力パルス粒子ビームや高密度プラズマの発生技術の開発とその産業応用を目指し、次世代半導体材料への新しいイオン注入や材料表面改質の研究に取り組んでいます。さらに、大気圧プラズマ、高出力マイクロ波、高圧力水中衝撃波を利用したエネルギー、環境、バイオ、医療分野への新しい応用研究を視野に入れて研究に取り組んでいます。

 本研究室に興味のある方は以下の動画をご覧ください。
電力システム工学研究室紹介【Tom’s TV】2016.8 放送

パルス電力技術応用

パルス電力技術を利用した応用研究

 パルスパワー技術の応用としては、核融合、強力放射線源、粒子ビーム源を始めとして材料科学、医学、環境等への多様な分野にまで拡がっている。我々のグループでは、そのようなパルスパワー技術を利用して以下の産業応用を目指して研究を行っています。

  • パルス重イオンビーム応用
     シリコン半導体に変わる次世代のパワーデバイスとして注目されている炭化ケイ素(SiC)半導体用の新しいイオン注入法であるパルスイオン注入技術の実現に向け、高純度のパルス重イオンビーム発生技術の開発、およびパルスイオン注入技術の研究を行っている。また、パルスイオンビームを金属などの材料に照射することによって、材料の表面だけを数マイクロ秒程度の短時間、非常に高い温度に加熱することができる。 これにより、材料表面の改質(硬度、結晶構造、粗さ、電気特性、磁気特性、等)が期待されることから、これに関連する研究を行っています。
  • パルス電子ビーム応用
     プラズマ加熱、荷電粒子加速器、レーダー、マイクロ波送電などの多岐の分野において大電力マイクロ波源の開発の期待が高まりつつある。高出力マイクロ波源の候補の1つとして、高強度相対論的電子ビームを用いた仮想陰極発振器がある。しかし、仮想陰極発振器はマイクロ波への変換効率が低いため、その効率向上を行う必要がある。本研究室では、パルス電力技術を利用した高強度相対論電子ビームを用いて、仮想陰極発振器の効率改善に向けて研究を行っています。
  • パルス放電応用
     水中でパルス放電させると大電流が流れることにより、水が急激に加熱・膨張することで高圧力の衝撃波を発生させることができる。この衝撃波を利用したコンクリートの破壊、水の殺菌、複合材料の破砕などの産業応用を目指して研究を行っています。
  • 大気圧プラズマ応用
     大気圧プラズマジェットは誘電体バリア放電の一種であり、ヘリウムやアルゴンなどの希ガスをガラス管(誘電体管)内部に流した状態で、誘電体管外部に取り付けられた電極に低周波数の高電圧を印加することで生成することができる。その特徴として、大気圧で生成できるため真空設備が不要であることに加え、プラズマ流が低温であるため照射対象物への熱負荷が少なく、かつ反応性に富んだ粒子種(イオン・ラジカル種・励起種)を容易に生成することができるといった点が挙げられる。これらの特徴を利用して、液中殺菌や人体への治療などのバイオ・医療応用への研究が盛んに行われている。本研究室では、OHラジカルの生成量の増加と水処理や殺菌・滅菌などへの応用を目指して研究を行っています。

 

非接触給電技術

走行電気自動車への非接触パルス給電技術

 電気自動車は環境・省エネルギーの観点から次世代自動車として期待されています。しかし、航続距離が短い、充電時間が長い、インフラ整備の不十分などの問題点があります。これらの問題点を解決するために走行している電気自動車への非接触給電システムの開発が行われています。現在、電気自動車の非接触給電方法は、電磁誘導方式、磁界共鳴方式、電波受信方式などあり、それぞれの特徴を活かして研究・開発が行われています。
 本研究室では、大電力を高効率で高速走行電気自動車へ転送する非接触給電システムの実現を目指し、大電力給電が可能な電磁誘導方式にこれまで取り組んできたパルス電力技術である“重共振法”と“容量移行”を組み合わせたパルス給電を利用することで、電磁誘導方式の欠点を克服し、空隙を有する低結合トランスでも高効率で電力を転送できる走行中電気自動車への新たな非接触給電法の研究に取り組んでいます。図に示すように道路側に設置された1つの給電装置からは、短時間(数ms程度)に1kJ 程度のエネルギーをパルス的に伝送され、多数の給電装置が設置された給電専用レーンを電気自動車が走行することで充電が可能となるシステムの開発を目指しています。

雷放電現象

雷放電現象の観測および評価

 北陸地域では冬季雷と呼ばれる特有の雷現象が観測されます。これは世界的にも希少な現象であり、気象学的に興味深いと同時に大きな雷災害をもたらすことから、雷災害対策上もその研究の重要性が指摘されています。また、雷放電は自然界の高電圧かつパルス電力であることから、その地域性を生かして雷雲の電荷量や雷放電の進展過程(図参照)等の雷の特性を観測・評価しています。また、雷災害対策への応用に向け、落雷による建造物への雷電流の影響の研究も行っています。

 

 

メンバー紹介

伊藤 弘昭

伊藤 弘昭教授

Hiroaki Ito

略歴

宇都宮大学大学院工学研究科 助手、富山大学工学部 電気電子システム工学科 助手、富山大学大学院理工学研究部 助手、富山大学大学院理工学研究部 助教、富山大学大学院理工学研究部 准教授、富山大学大学院理工学研究部 教授、現在に至る

学位・資格等

博士 (工学)、第二種電気主任技術者

専門分野

  • 高電圧工学
  • プラズマ理工学

主な業績

富山大学 研究者総覧
researchmap
電力システム工学研究室紹介【Tom’s TV】2016.8 放送
パワーアカデミー研究者インタビュー(非接触給電)

竹崎 太智

竹崎 太智助教

Taichi Takezaki

略歴

北九州工業高等専門学校 生産デザイン工学科 助教,富山大学 学術研究部工学系 助教,現在に至る

学位・資格等

博士 (工学)

専門分野

  • プラズマ理工学
  • 高電圧工学

主な業績

富山大学 研究者総覧
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研究室メンバー

研究室メンバー 

プロフィール

令和3年度メンバー (総勢 25 名):
修士 2 年 6 名,修士 1 年 7 名,学部 4 年 8 名,スタッフ 4 名

 

令和2年度 集合写真

研究業績

高電圧パルス電力技術応用

論文・発表

  • "Energy evaluation of pulsed heavy ion beam in bipolar pulse accelerator", 7th Euro-Asian Pulsed Power Conference & 22nd International Conference on High-Power Particle Beams (2018)
  • "Generation of high power microwave from multistage axial virtual cathode oscillator for efficiency enhancement", 2nd Asia-Pacific Conference on Plasma Physics (2018)
  • 「両極性パルス加速器におけるパルス重イオンビームの2段加速の実証」, 平成31年電気学会全国大会
  • 「反射三極管型仮想陰極発振器における出力マイクロ波電力測定と電極構造依存性」, 平成31年電気学会全国大会
  • 「MOSFETを用いた多段繰り返し型高電圧パルス発生装置の開発」, 平成30年度電気関係学会北陸支部連合大会
  • 「マイクロ波効率改善に向けた仮想陰極発振器における多重共振器構造の効果」, 平成30年度核融合科学研究所共同研究研究会
  • "Experimental Studies on Cathode Material Dependence of Mirowave Power in Axially-Extracted Vircator with Resonance Cavity", 21th International Pulsed Power Conference (2017)

プラズマ関連

論文・発表

  • "Decomposition of methylene blue by laminar gas-fed atmospheric pressure plasma jet using double coaxial glass tube", 2nd Asia-Pacific Conference on Plasma Physics
  • "Propagation characteristics of plasma ballet in laminar gas-fed atmospheric pressure plasma jet using double coaxial glass tube", 21th International Pulsed Power Conference
  • "Characterization of atomospheric pressure plasma jet with glass tube structure for different gas supply", Plasma Conference 2017
  • 「二重同軸ガラス管を用いた大気圧プラズマジェットにおけるプラズマビュレットの伝搬特性評価」, 平成29年度電気関係学会北陸支部連合大会
  • 「窒素ガス供給構造を用いた大気圧ヘリウムプラズマジェットの特性評価」, 2017年度日本物理学会北陸支部定例学術講演会
  • 「異種ガス供給構造ガラス管を用いた大気圧プラズマジェットの特性と材料への照射実験」, 平成29年度核融合科学研究所共同研究研究会

電気自動車への非接触給電技術

論文・発表

  • "Power Transmission Efficiency Evaluation of Electromagnetic Induction Type Contactless Power Supply System for Running Electric Vehicle under Relative Motion", 24th International Conference on Electrical Engineering
  • 「走行時 EV 車両を想定した電磁誘導式非接触電力伝送装置の製作と伝送電力評価」, 平成29年度電気関係学会北陸支部連合大会

雷関連

論文・発表

  • 「雷インパルスを用いた避雷針設置建造物への直撃雷による電流分布の測定」, 2017年度日本物理学会北陸支部定例学術講演会
  • 「雷インパルスを用いた建造物落雷における建造物内電流分布の測定」, 平成29年度電気関係学会北陸支部連合大会
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