π-d相互作用に基づく新規磁性電導体の開拓
π電子系をもつ有機化合物は電気伝導性を示す物質、d電子系を持つ遷移金属イオンは磁性を示す物質の開発に用いられてきました。これらを上手く組み合わせることで、磁性と電導性をともに示す物質の開発を目指しています。
例えばこのように、酸化によって不対電子を生じるユニットを2つもつ分子では、分子全体の価数によって、混合原子価状態が発現したり、2つの局在スピン部位間にπ電子を通じた長距離相互作用が働いたりすることが期待されます。
四角酸を組み込んだ有機伝導体とその遷移金属錯体の合成と物性
電導性を担う硫黄を含んだ有機ドナー分子に、電子を受け取りやすい四角酸を結合させることで、分子内で電荷移動が起こる結果、溶媒によって色が変化したり、単一の分子種で電気を流したりすることが見出されました。またこの分子は、有機ドナー分子部位の水素原子をメチル基に置換したり、四角酸部位の数を2つに増やしたりすることで、分子の酸化還元挙動が規則的に変化することもわかっています。
この分子を遷移金属イオンと相互作用させることで、有機分子と遷移金属との間の電荷移動が加わり、ドナー分子から四角酸骨格への電荷移動量が変化することを利用して、固体の物性を制御できることが期待されます。特にこの分子は分子内に遷移金属と相互作用しうる部位を2種類もっており、遷移金属の種類を変えることで、物性の細かなチューニングが行える可能性があります。また遷移金属イオンは磁性を持っているので、磁性電導体の開拓の面からも興味がもたれます。
π-π相互作用を用いた磁性ナノ粒子の表面修飾による整列制御
直径が 2nm (2×10-9m) 程度のPdナノ粒子は、常磁性金属原子を1つ混ぜるだけで粒子全体が磁石になります。このナノ粒子の表面をπ電子系をもつ分子で修飾することで、π-π相互作用を利用してナノ粒子を整列させた高密度磁石が構成できると考え、粒子の表面を修飾する分子の開発を行っています。
宮﨑 章准教授
Akira MIYAZAKI, Associate Professor
略歴
東京大学卒業、東京大学大学院博士課程中退、東京工業大学大学院理工学研究科助教、富山大学大学院理工学研究部(工)准教授、現在に至る
日本学術振興会特定国派遣研究者(フランス, CNRS – レンヌ第一大学, 2013)
学位・資格等
博士(学術)
エックス線作業主任者
実用英語技能検定1級
実用フランス語技能検定準1級
専門分野
物性化学・物理化学
主な業績
プロフィール
赤松・井口らによるペリレンー臭素錯体の発見を嚆矢として、電導性分子固体は化学と物理が手を携えて発展してきた学際的分野です。分子性固体は、その構成分子を自由に設計・制御できること、また結晶内で分子が低次元的に配列することで理想的な低次元系が得られることから、化学と物理の両面から広く興味をあつめる研究対象となっています。
当研究室では機能性分子固体の持つ性質として磁性と電導性に着目し、新たな分子性固体の開発を進めています。